無料航空券を握り締め香港へ

※デジカメ画像を紛失したので、写真はありません m(_ _)m

 一昨年、噂の沢木耕太郎の復刻文庫版「深夜特急」を始めて読んだ。 貧乏旅行者にとって、この「深夜特急」という本が バイブルと呼ばれているということは、随分前のインド旅行中に教えてもらった。
 今まで読んでいなかった方が不思議なくらいではあるが、読む機会が無かったというか、むしろ避けていたかもしれない。
 他人の旅行記に指示されたくない/影響されたくない、自分らしさへのこだわりというか、変な意識があって、この類の本には 端から懐疑的になっていたのだ・・・
 本屋に平積みになっている第一巻を手に取ってしばらく立ち読みしてみたのだが、実にそそられる内容である。  全六巻を購入した私は、その日中に一気に全巻を読破した。(読み終えたのは朝の4時だったが)

「沢木耕太郎というやつは、なんて情けないやつなんだ。」 私の率直な印象である。
 優柔不断で小心者なのに、妙に意固地なところがある。 カッコいい言い訳をしているが、単に現実から逃げているのだ。
 実にそっくりだ、私と。 私のように情けない人間が世の中にもいるもんだなと、 まるで自分の過去の恥ずかしい日記を見るが如くはまってしまった。

 彼が選んだ行程や、バスという移動手段は確かに面白いのであるが、そんなことは、この際どうだっていい。  沢木耕太郎という人間が、この「深夜特急」を通じて、自分の恥部を公衆に晒しているのだ。  そして、その恥部に共感する自分に、妙に照れ臭く感じている私。 これこそが、この本の本質なのだと、沢木耕太郎が聞いたら 烈火の如く怒り出しそうな解釈をしてみる・・・

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 日本航空のマイレージが2万マイル貯まっているのだが、年末までに特典航空券に換えないとほとんどが失効してしまう。  急いで引き換え手続きをしなければ・・・ この時、「深夜特急」のことをふと思い返した。

「そうだ、香港に行こう。」

 強引ながら、沢木耕太郎の「深夜特急」の旅と、私が卒業旅行として最初に体験したインドへの貧乏旅行には妙な共通点がある。

@2人とも25歳の時を旅先で過ごしている。
A香港経由のエアインディアを利用して出国した。
B沢木耕太郎は夜の香港啓徳空港に情報隔離状態で一人取り残された。
  そして、私はガイドブックを無くして、デリーの空港に情報隔離状態で一人取り残された。

 しかし、彼と徹底的に違うのは、私は香港の空港をトランジット利用しただけで、香港への入国は未経験なのだ。  今となって考えると、返還前の混沌とした香港に入国しなかったことは、非常に勿体無い話である。
 今更悔やんでもしょうがないので、ここは一つ、この無料航空券でリベンジといこう。 そして、沢木耕太郎と私の感受性を 比較してみよう。

 そうこう考えているうちに、旅行当日の朝はやってきた。 持ち物はパンツ2枚、Tシャツ2枚、靴下2足、短パン1つ、 これらを10年来使っているリュックに詰め込み、僅か5分の旅支度を行う。 ただし、現金はたっぷり5万円と、 CITIバンクのキャッシュカード。 外見は貧乏旅行、内面は結構リッチと言えなくも無い。

 チンタラ準備をしていると、10時のフライトに遅れそうなので、南海のラピートを利用する。  いきなり貧乏旅行のコンセプトに反する行為だ。
関西国際空港に到着すると、出国ゲートには長蛇の列が。  そう、3日前はあの「9・11同時多発テロ」が発生した日なので、警備が強化されているのだ。
 ようやく出国手続きを終えると、「×××さま、49番ゲートまでお急ぎください。」とのアナウンスが・・・  いゃいゃ、呼び出しをくらってしまった。 しかも、一番遠い、ウィングシャトルで終点にあるゲートまで急がなければ。
 急ぎ飛び込んだDC10の扉は間髪入れずに閉じ、そそくさと出発するのであった・・・

 貧乏臭い私は、機内ではタダ酒を思いっきり楽しむ派である。 ビールかジントニックを頼んだ後、ワインをガバガバというのがお決まりの パターンである。
 しかし、今日はちょっと変だ、気分が悪くなってきた。

 以前プーケットに行った時の事を思い出した。
大阪(伊丹空港)→ シンガポール → プーケットと乗り継いだ行程で、弾けまくった私は、両区間のフライトで、 アルコール類を浴びるように飲んだ。
 ふと立ち上がると、目の前が一面、紫色に染まった。 大量の脂汗がダラダラと流れ出て、そのまま、 ほとんど失神状態で座席にダウンした。
 気が付いた頃には着陸寸前で、不思議なことに体調は完全に回復していたのだ。 これって気圧とアルコールの影響 なのだろうけど、今回も同じ轍を踏んでしまったようだ。 特にエコノミークラスの安酒である点も関係あるかも知れない。

 高度が下がり体調はすっかり回復した。 もうすぐ香港国際空港に着陸だ。

 前述のインド貧乏旅行の折の香港トランジットは、この香港国際空港ではなく、かつての啓徳空港(カイタック)だった。
九龍のビルの合間を縫うように着陸する様は圧巻だった。 少しでも操縦を間違えると大惨事となる状況下で、平然と暮らす人々が 居るというのも理解し難かった。
 しかも、海にはジャンクが停泊していたため、「教書にあった阿片戦争のイラストみたい」と感じたのを覚えている。

 ここ香港国際空港は、香港中央部は遠く離れた島にあり、広くて綺麗だ。  でも、最近の大型空港(シンガポールのチャンギや、マレーシアのKLIA、関空 など)って何か金太郎飴みたいに、 全部同じに見えてしまうのは私だけだろうか?
 全くガイドブックの類は持参しなかったので多少心配であったのだが、完全に杞憂であったことが分かった。 空港のいたる所に、 数種類の無料ガイドブックがうず高く積まれている。 さすがに観光都市だ。
 到着ロビーのすぐ横には、鉄道が横付けされていて、乗り継ぎは極めてスムーズである。 運賃は片道で90HK$ (1HK$は約15円なので1350円くらい)、往復だと160HK$とのこと。
 ふと横のポスターに目をやると、周遊券の説明が・・・ 空港と市内の往復切符と地下鉄3日間乗り放題で300HK$とのこと。  ちと高い感じだが、駅員に聞くと、50HK$はデポジット、20HK$はプリペイド分ということで、実質は230HK$。
 相場が分からないので、ものは試しで周遊券を購入することにする。

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 空港鉄道(機場快線)は快適だが、割高なのだろう、8割方は空席のようだ。  大阪で言えば天王寺から「はるか」に乗る感覚なのだろうか。
 終点の香港駅の上は金融センターになっており、国際金融ビジネス都市にふさわしい町並みだ。  少し歩くと地下鉄の中環駅(Central)に到着する。

 事前調査によると、佐敦(Jordan)というエリアに安宿が比較的多いらしい。
例の周遊券(オクトパスカード)を使い改札を通る。 何と改札は非接触タイプ(当時日本にはSUICAもICOCAもまだ無かった) である。 私の乏しい知識ながらSONYのFELICAを世界初で実用化した事例がこのオクトパスカードであるはずだ。
 周りの客は凄まじい勢いで、鞄を改札機にぶつけている。 鞄の底にオクトパスを仕込んでいるのだろうが、 香港の人は自分の鞄が傷んでも平気なのだろうか?

 赤い路線の地下鉄・ツェン湾線(ツェンは草かんむりに全)に乗り込む。  この地下鉄は青い路線の地下鉄・港島線と、中環駅、金鐘駅(Admiralty)の両駅に渡って並行する。
 大阪ではさしずめ、御堂筋線と四ツ橋線の大国町駅、難波駅みたいなのだが、 感心させられたのが、スムーズに乗り換えられるように設計されている点だ。
 中環駅ではお互いに進行方向が同じホームが隣接しているのだが、駅間で線路が交差するようになっており、金鐘駅では お互いに逆方向のホームが隣接するようになっている。 初めての客は戸惑うだろうが、目的地に応じて乗り換え駅を選択する という合理的な発想である。

 地下鉄車内はさしづめ携帯電話地獄とでも言おうか。 駅は当然として、海底を走行中でも通話可能であり、 無遠慮な喋りっぷりからは、車内での通話はマナー違反であるという概念は恐らく存在しないと思われる。
 揃いも揃ってノキアの超小型携帯を持ち、着信音は最大限に設定している。

 佐敦駅を上がると、整然とした中環とは違って雑然とした町並みが現れた。 もちろんホテルは予約していないので、これから宿探しだ。
 九龍半島のメインストリートであるネーザンロード沿いに、イートンホテル、マジェスティックホテルという 比較的大きなホテルが並んでいる。 日本でいうとワシントンホテルくらいの感じであるが、部屋代を聞いてみると、 1万円を超える額である。 ここでは貧乏旅行のコンセプトに反するので、早々に退散し、目星を付けていた安宿を探す。

 ネーザンロードを西に二本入ったところに、その宿はあった。 ラッキーハウスという日本人専用ドミトリーである。
 小さな雑居ビルの、小汚い階段を上って宿に入ると、中から、超無愛想な老人(日本人)が出てきた。  1泊70HK$(約 千円)とのことだが・・・
 うーむ。メチャメチャ汚い! 2段ベッドが隙間無く並んでいて、圧迫間満点! ほとんどの、宿泊者はベッドの一部と化して、 寝転んでいる。  インド旅行の際には、ドミトリーを好んで転々としたのだが、ここは、余りにも雰囲気が悪すぎる。 土ぼこりなどの汚れは平気 なのだが、この湿っぽい雰囲気では、ゴキブリの巣と化しているに違いない。  住めば都とは言うものの、サラリーマンのなんちゃって貧乏旅行には無用の宿って感じだ・・・

 こちらも早々に退散し、宿探しを再開する。 佐敦駅に戻り、辺りの見回すと佐敦駅の真上の雑居ビルの一室に「南北酒店」 という看板が見えている。
 恐る恐るベルを鳴らすと、鍵が開く音が・・・ 中からは、この状況に似つかわしくなく可愛らしい女性が微笑んで出てきた。  少女のように見えるが、大人の女性(インドネシア人)である彼女が、昼間はこの宿を一人で切り盛りしているらしい。

 ホテルとは言っても、僅か5部屋しかなく、3部屋あるシングルルームは全て埋まっているらしい。   空いているツインルーム(1泊260HK$)と、ダブルルーム(1泊250HK$)を見せてもらう。  値段交渉をしてみたが、雇われの身である彼女にはどうすることもできないらしい。
 バスタブが無いのがイマイチだが、角部屋かつ若干広いということで、ツインルームで手を打つ事にした。

 南北酒店(NORTH & SOUTH HOTEL) Tel: 2730 9768


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