インドが俺を呼んでいる?ジャンパトホテル(Janpath Hotel)の初老のベルボーイは、1ルピーのチップにうやうやしく礼をし、部屋を出て行った。 ベッドに仰向けになると、体の震えが止まらなくなった。 不安だ・・・・ 何でこんな無茶をしたんだろう。 後悔で一杯だ。 ----------------------- インドという国は以前から何か引っかかる存在であった。 高校時代の恩師である金丸七郎先生から、インド日本人学校時代のエピソードを聞かされていた事もあるが、
インドに興味を持ったきっかけは、自宅の本棚で見つけた一冊の文庫本との出会いが大きい。 大学院の卒業が近づくにつれ、卒業旅行の話題が多くなった。 「インドが俺を呼んでいる」 ----------------------- 大阪空港(伊丹空港)を離陸したエアインディアのA310型機は、急上昇して左に旋回した。 恥ずかしくも、後2日で25歳になる私にとって、初海外旅行&初飛行機だ。 客室乗務員もサリー姿、機内食もカレーと、早くもインド情緒に溢れている。 機体は最初の降下を始め、雲を抜けると、ジャンク船が停泊する港町が出現した。
生まれて初めて見る外国の地である香港に、途中経由するのだ。
高層ビルの谷間を縫うように、まるで窓に手が届くように、啓徳空港に着陸した。 啓徳空港の免税店を冷やかしてみたが、特に興味があるものは無い。 早々と空港見学を切り上げ機内に帰って来た。 無い! 前席のポケットに入れていたはずのガイドブック全てとフィルムが無いのだ。 客室乗務員に事情を説明するも、「我々には何もできない。エアインディアの本社に言ってくれ」との一点張りなのだ。 困った。 困ったというよりも呆然とした。 ガイドブックが無ければ、どこに行けば良いのかさっぱり分からない。
旅行前におぼろげに想像していた、インドでの旅程や宿泊するホテルの情報が、完全に真っ白になってしまった。
隣の香港人乗客が心配して話しかけて来てくれたが、この状況では何の解決策も考えられない。 ----------------------- エアインディア機の最終目的地はボンベイ(ムンバイ)であるが、私の降機地は首都デリーである。 空港を出る足取りは重い。 暗い夜道に点在する焚き火、路上生活者では無いかと思われる。 今の心理状況では何を見ても恐ろしい光景に思える。
なんて国に来てしまったんだろう。 今となっては取り返しがつかない。 |
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